経済学:市場が均衡するとの前提であるが、それ何年?

「(中野)TPPに入ると農業がダメージを受けて、失業者が出る。普通は2.7兆円の利益というと、その損害を上回ったプラスの部分が2.7兆円だと思いますよね。ところが、違うんです。
 TPPに入って農業が壊滅する。農家が失業する。でも、農産品が安くなったので消費者は恩恵を受ける。この部分はちゃんとカウントする。では、失業する農家はどうなるのか。瞬時に別の職業に就くんです(笑)。だから失業者はゼロになって、農家のマイナスは計算されない。一般均衡モデルの均衡とはそういう意味なんです。(中略)
 このような欠陥があるのは、実は計量モデルに限らない。経済学という学問自体が、市場が均衡するとの前提に立っているんです。経済学者はよく言う。「ご批判の通り、確かに短期的には需要と供給は一致しない。だから、短期的には失業者も出る。でも、長期的には均衡する」と。ところが彼らは、その均衡する長期が何年なのかを言ったことがない。知らないんです。では長期とはどういう意味かと聞くと、市場が均衡するまでの時間が長期だと答える。つまりトートロジーなんですね。失業したまま寿命が尽きてしまう人のことは考えない。
 彼らは、「これは理論の世界であって、現実がそうなるとは言っていない」と言い続けています。しかし、理論を現実に近づける努力をしようとしない。それどころか、現実を理論に合わせようとしているわけです。(P87−89)」


「日本破滅論 (文春新書 871) 」より

 「理論を現実に近づける努力をしようとしない。それどころか、現実を理論に合わせようとしているわけです。」怖いなぁ。