トヨタ問題(PRの本義とは)

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 「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
      平成22年(2010)8月25日(水曜日)弐
        通巻3045号 <休刊前特大号>
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 ゴールドマンサックス、BPと並んでトヨタが「世界三悪企業」?
  なぜ日本企業は広報(情報戦略)にこれほど脆弱なのか
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 ▲大山鳴動してネズミ一匹
 
トヨタがいわれなき「リコール騒ぎ」に突如、巻き込まれ、悪のイメージを振りまかれ、米議会に社長が呼びつけられて謝罪までして、おどろくなかれ、トヨタが原因の事故はなかったという結果がでた。
あのマスコミの集中砲火はトヨタをまるで殺人犯扱いした。

カネ目当ての悪徳弁護士と偽消費者らしき人が組んだとしか思えない、奇妙な裁判に平行して事故究明が続けられた結果、トヨタは欠陥車をつくっていなかったことが明白となったのである。
では、この責任を誰がとるのか?

 トヨタのリコール問題は09年九月に一度浮上した。
おりからGMが倒産し、アメリカ人はスケープゴートを求めていたとも考えられる。
GMはその企業経営悪化の原因が技術革新を怠って、現場を見ないトップらが呼号した能率アップと業績上昇だけの経営と、自家用飛行機を贅沢に乗り回した経営者もさりながら左翼労働組合の怠慢、傲慢にくわえ、途方もない年金、諸手当の累積が経営を圧迫していた(JALも似ている)。そのGM批判をすり替えるにも、トヨタは格好の攻撃材料として使われた。

 GMは政府管理から僅か一年半で黒字転換し、株式の再上場を射程に入れ、ことしの中国国内での生産を150万台と豪語し始めた。
時系列に幾つかの事件とどたばた劇のタイミングをたどれば、ひとつの方程式=「トヨタを悪者にする」という、したたかな情報戦略が浮かび上がる。

 企業イメージがいたく傷つけられたトヨタは、まだ地球的規模で経営と販売がふらふらしているが、これも饒舌を多としない企業風土、三河武士の伝統からくる硬直した気質なのだろう。


 ▲危機管理能力が問われた

 しかしBPとゴールドマンサックスの評判が悪いのは身から出た錆であり、トヨタを同列に論じて貰っては大いなる不満が残る。
 だが欧米ジャーナリズムは意図的にそれをやるのだ。

 ヘラルドトリビューン紙(8月23日付け)は「ゴールドマンサックスはバンパイアと『ローリングストーン』誌に叩かれたように投資家の生き血を吸って太り、司法取引に応じて五億五千万ドルを支払う。BPはメキシコ湾岸で米国石油市場最悪の事故を引き起こしても過小にみつもって発表したため株価が暴落し、そのうえ天文学的保証金に応じる。トヨタはまた。。。。。」と書き出した。

 危機管理能力が問われたのは言うまでもないが、トヨタ以外の企業は、広報担当のベテランがその都度、記者会見で『弁明』をせず、論理的に自己正当化を試みる一方で、かならず明るい未来を語り、そう簡単には責任を認めない。ときには強気で会見に臨み、イメージを死守し、ひいては株価を守る。
 だがBPもゴールドマンサックスも、それが裏目に出た。

 BPの場合は事故発生同時「たいしたことはない、湾岸への流失は一日1000バーレル程度」と損害の過小評価をしていた。2010年4月21日だった。
このためオバマ政権の初動が遅れ、フェンスを緊急に輸入しても湾岸の原油汚染は広がって、最後には一日60,000バーレルが流れ出した。
 国を挙げての損出となり、BPは再起不能に近いといわれるまでの財務状態に陥った。

 ゴールドマンサックスの場合は08年リーマンショック直後から株が暴落を始めたが、AIU救済で納税者の救済措置をはたらきかける背後で、インチキを繰り返したことがばれて、本格的な株価下落は2010年4月17日からである。

 トヨタに代表される日本企業はまず記者会見で謝罪する。これは保証を約束したと同義語であり、責任をみとめることであり、それは日本人であれば美意識に基づくことがわかるが世界はわかってくれない。
日本の常識は世界の非常識、企業も国家も謝罪するということは負けを認めることなのである。

 
 ▲PRの本義とは

 トヨタは議会証言でトヨタはシロだと強弁するところを謝罪してしまった。2010年1月21日の議会証言だった。
直後からトヨタ株は半値近くまで暴落した。だが。「トヨタはその後、社をあげて誠実に対応したので消費者の疑惑が薄まり、イメージは一番先に回復した」とヘラルドトリビューン紙は一転して論調を変えた。
「車の性能と燃費効率を再確認し、その安全性が壊れていなかったことに消費者は安堵した」と。

 PRというのは PUBLIC RELATION(社会との関わり)のこと、日本ではPRは単に「宣伝、広告」と勘違いされているが、ひろく「弘報」(広報を含むイメージの創成と維持)を意味するのである。

だから欧米の企業ではこの部署にはベテラン広報マンと弁護士がチームとなって対応する。日本も国際化時代に突入してしまった以上、同じ対応をとる必要がある。日本企業は往々にしてこの重要作業を電通などに委託している。

 陰謀があったとは言わないまでも、トヨタのイメージが大きく毀損され、この間隙をぬって、実に逞しく売り上げを伸ばしたライバル自動車メーカーがあることは紛れもない事実であろう。