昨日予習したら防衛相は自衛官ではないそうだ

冗談はいい加減にして欲しい。

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菅首相に制服はない
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      梅岡 弘

19日の菅首相と自衛隊の4幕僚長との会談のニュースで、首相が冒頭に同席の北沢防衛相に「昨日予習したら防衛相は自衛官ではないそうだ」などと言っているのを読んで、「おやおや、こんなことも知らないのか!」と思っていた。

当メルマガ22日の阿比留瑠比さんの「菅首相の寒いジョーク(?)」を読み、その詳しい状況を知って、あらためて「おやおや 付け焼刃でお粗末もよいとこ!」と思った。

会談の発端を作った2日の衆院予算委での自民党の石破茂委員の質疑は、猪瀬直樹さんの「昭和16年夏の敗戦」の紹介を含めて文民統制のあり方の関連で聞かせる内容のあるものであったが、それを素直に聞いて4幕僚長との会談を設けたところまでは結構だった。しかし、公開された冒頭のやり取りはいかにもお粗末だった。

改めて阿比留さんの記事からサワリの部分を再録させてもらうと、つぎのようである。


菅首相 大臣だけが背広組で、寂しそうですね。

北沢氏 夏休みとらせてもらって、今日復帰したんです。

菅首相 そういう意味ではなくて、制服を着ている…

北沢氏 お互い元帥だけど、制服作ってくれない。

菅首相 昨日、事前にですね。予習をしましたらね。あの、大臣は自衛官じゃないんだそうです。制服はしなくても上なんですよね。

北沢氏 この皆さん(各幕長等)も退任するときは(制服を)返していく。それで後の人が着るかと思えば、そうじゃない廃棄するから。人生の一番の記念品だからなあ。あげりゃあいいと思うんだけど。》

珍しく縁遠い制服職種群の人に逢ったときのように、二人は他愛のない制服談義をしている。ところが自衛官の制服については他愛ごとでない意味があるので、北沢防衛相(在任約1年)の制服についての誤った認識の指摘とともに、それを述べておきたい。。

首相は、「内閣を代表しての自衛隊の最高の指揮監督権者」(自衛隊法第7条)で、また防衛相は「自衛隊の隊務の統括者」(同法第8条であるが、ともに「自衛隊員」(文官を含む。)でもなく、「自衛官」でもない。

「制服」は普通は武器使用ができる「自衛官」しか着用できないもので、これは地位の上下とは関係のないケジメである。以前、あるできがよくない防衛庁長官が訳知らずに制服を欲しがって自衛官の戦闘服(作業服)類似のものに5個の桜マーク(幕僚長は4個の桜マーク)を付けて悦にいっていた馬鹿げたことがあった。

また、制服は、「曹・士」クラスは貸与制で、「幹部」クラスは自費制である。だから幕僚長等が退任しても返却の必要はない。しかし「自衛官」の身分を失ったときは現在の制度では「制服」を着用できない。

このように「制服」のことをわざわざと言及するのは、意味があってのことである。自衛官の「制服」は、武人の「戎衣」である。「戎」はもともと「戈」(ほこ)にそえ木をあてて刃をつける様から「いくさ」を意味し、その「衣」すなわち戦場で着用する衣服を意味した。

だから現代の運輸会社などの集団社会によくある統一服装とは外見上の差異はないが、本来の意味は大きく異なる。自衛官の制服=「戎衣」は、戦(いくさ)ひとの「ハレ」の装束であるとともに時には「イノチ」がかかったの装束にも通じる厳粛なものである。

制服のない首相や防衛相に心得ておいて欲しいのは、このことである。
文民統制がケジメなら、制服着用もケジメである。これの意味が判らない文民統制の資格を欠いた政治家がすくなくない。

なお、折角に設けられた会談の内容は明らかにされていないが、近時の中国海軍や北朝鮮軍の動向、1年先送りされた新防衛計画の大綱や次期中期防衛計画の策定、現在の自衛隊の国際支援の諸活動、11年度の防衛費を含む10%の一律カット、防衛白書の7月→9月の発表延期など予想される事項だけでも約1時間では語りつくせない内容があるが、その扱いぶりと菅首相の理解度が気になるところである。

戦後の反動的な平和教育とともに軍事倦厭が浸透した市民運動で育った菅首相が、不得意といわれる外交・安全保障の分野で前任の鳩山氏とどこまで差異が示せるか、このところもっぱら民主党の代表選挙の動向が注目されているが、ボロなテレビ番組によくある冴えない芸人たちなみのパーフォーマンスだけは止めてもらいたい。

ついでにもう一言。選挙と政局に色めきたつが、ふだんは昼寝に等しいゲーム感覚だけの国会議員が政権党に目立つ。