お金とは


日銀のBSは至ってシンプルです。資産の部は国債と貸出金が9割以上を占め、負債の部は発行日銀券と預金(当座預金と政府預金)が9割近くを占めています。つまり資産は債権、負債は「お金」という極めて単純な構成になっています。なお金地金はいわゆる金の延べ棒であり、現金は日銀券ではなく政府が発行して流通させるために日銀が受け入れた硬貨のことです。

まず、発行日銀券とはその名の通り日銀が発行し市場に流通させた日銀券です。2011年3月末現在、日銀のBSには80兆円の発行日銀券が計上されていますが、これは日銀以外の銀行が保有している、あるいは銀行から引き出されて市場に流通している紙幣が80兆円あるということです。日銀券の負債性についてまた後で取り上げますが、ここではとりあえず日銀券とは日銀が振り出した約束手形のようなものだと思って下さい。


お金の話(その1) 「お金とは」

日銀当座預金が日銀にとっての負債であったのと同様、預金は銀行にとっての負債です。日銀はオペレーションによって紙幣を増やしたり減らしたりしましたが、預金はどのように発生するのでしょうか。

よく銀行は個人や企業からお金を預り、この預金より高い利率で別の個人や企業に貸し付けて利ざやを稼ぐと言われます。しかしこれは預金が発生するプロセスを説明しません。個人や企業が「紙幣」を銀行に預けるならば、日銀が発行した日銀券が預金の源泉になると言えます。しかし企業が債務の決済に紙幣を使うことはなく、たいていは銀行口座の振込みや手形を用います。個人が企業から給与を受け取るのも口座振込みです。これは銀行間を預金残高が移動するだけで、全ての銀行の預金残高即ちお金の総量は変わりません。市場の中をお金がグルグル回っているだけです。つまり個人や企業が預金を行うところからスタートすると、そもそも預金はどこから来たのかという循環論に陥るのです。


お金の話(その2) 「日銀当座預金」

個人や企業が経済活動を行って資金決済を繰り返し、銀行から銀行へどれだけお金が循環しても、全国銀行の預金総額は変わりません。全国銀行のBS上では預金という同じ負債勘定の中で異なる口座間の振替が行われるだけです。前回お話したように、銀行が私たちからお金を預かってそのお金を貸し付けるというモデルでは、銀行の機能をうまく説明できないのです。

お金は借入れによって発生し、返済によって消えてなくなります。お金の正体は債務です。通常私たちは借金を不幸の代名詞のように扱い、車や住宅のローンを背負っていると一生懸命これらを返済しようとします。個人のレベルでは借金がなくなることは望ましいことかも知れませんが、経済全体で考えた場合には事情は異なります。もしこの世から借金がなくなれば、お金もまたなくなってしまうのです。

お金の話(その3) 「お金と債務」