一部しか届かぬ「台湾の震災義捐金」問題について

迷ったがメモしておこう。

台湾から支援を受ける側の日本の国民としては、この問題を取り上げることに躊躇いがないわけではないが、しかしかねてから台湾の名誉を守りたいと考える複数の台湾の人々からの強い要望もあり、敢えて書くことにする。

台湾赤十字社(中華民国紅十字会)総会の会員代表会議が四月二十三日に開かれ、陳長文会長が辞意を表明した。

中央通信の報道によれば、「台湾赤十字が東日本大震災への義捐募金を巡り非難を浴びたためと見られている」という。

李鴻源内政部長(内務相)が三月二日に明らかにしたところでは、台湾赤十字が集めた義捐金総額は二十五万七千百五十一万元(約七十一億円)で、そのうち日本赤十字へ送ったのはわずか約八億元にとどまっている。

李部長は募金処理の過程で瑕疵があったことを認め、今後は処理の透明化を監督すると述べた。

だが実際には国民党政権は、赤十字は民間組織だとして不干渉の姿勢を見せてきた。そもそもこの組織は、幹部が国民党関係者で占められるなど、同党と密接な関係にある。

こうした状況だから、野党、そして国民の間では「ただちに全額を日本へ送れ」「台湾人の善意を踏み躙るな」「ネコババする気か」との怒声が当然のごとく巻き起こった。

もっとも台湾赤十字に対する国民の不信感は、早くから高まっている。

それはもともとこれが中国で設立され、今でも中国人意識が強い組織であることへの反撥からだけではない。

たとえば〇四年のスマトラ沖地震被災地への支援募金の際、台湾赤十字台北分会は、集めた義捐金額の一五%を「業務交通費」なる名目の手数料として引き抜かれたことが明るみに出た。募金業務に携わる職員への奨励金に充てられたとか。

〇五年に問題になったのが、幹部の給与問題だ。当時幹事長だった国民党の?竜斌氏(現台北市長)の月給は十二万元もの高額で、その腹心八人の年収も一人当たり約一千万元。それらだけで赤十字の人件費の実に半分を占めた。

〇八年には?竜斌市長の台北市が、かつて九九年の台湾大地震救援のために集めた義捐金の残金六千四百万元を、折から発生した国内の水害被災地に回すこともなく、台湾赤十字を通じて四川大地震の被災地に届けている。内政部はこれを「合法的だ」として咎めなかった。

こうした国民感情を裏切る行為が続いたため、東日本大震災の発生で国内の「日本支援熱」が高まる中、野党民進党や国民の間からは、「義捐金は台湾赤十字ではなく、直接日本赤十字へ送ろう」と呼びかけられ、実際に多くの人々がそれに従っている。

これに対して赤十字は「一五%の手数料は取らない」などと表明したものの、今度は義捐金の一部しか日本へ届けていないことが問題となったわけだ。

ちなみに震災発生直後に来日した陳会長は私の知人(在日台湾人)に対し、「日本へは現金ではなく、物資を送る」との意向を示していた。台湾赤十字の不透明さを知る知人はそれを聞き、金額のごまかしは生じないかと質問したが、陳会長はそれには何も答えなかったという。

義捐金を一括して日本へ送らない理由について知人は、台湾赤十字には総会のほか、台北分会、新北分会、台湾省分会などいくつもの分会があり、それぞれが総会とともに縄張り争いを演じ、まとまりが取れないためではないかとも分析していた。

一方台湾赤十字自身は三月三日、国民の疑惑を晴らすため、「義捐金は日本赤十字の求めに応じて送ることになっており、今後双方で協議する予定。約十七億元の残金は、病院、公営住宅、老人住宅などの建設に充てられる予定だ」と説明している。

ところで、日本のマスメディアが台湾赤十字の日本に対する「出し惜しみ」について、ほとんど報道しようとしないのはなぜか。

ある事情通は、台湾側が「書くな」と圧力をかけているのではないかと見ている。実際に台湾の駐日代表(大使に相当)は、国民党にとって好ましくない記事を書いた某新聞社に強い抗議を行い、困惑させるなどしている。

中国の圧力で国際社会での孤立を余儀なくされる台湾政府はこれまで、日本に対しては涙ぐましいほど低姿勢を貫いてきたが、今や中国への従属姿勢を強める国民党政権は、その「宗主国」の威を借り、在台中国人ならではの反日意識も手伝って、日本を見下すようになったのだろうか。

台湾赤十字は四川大地震被災地への支援金も「出し惜しみ」しようとしたのだが、中国側から「全部送れ」と要求され、それに従わざるを得なかったとか。

「台湾赤十字が預かる台湾人の善意をすべて日本へ届けさせるには、中国の恫喝の力を借りなければならないようだ」というのは、ある台湾の友人の戯言である。

ただ、今後こうした状況がいかにあれ、日本国民の台湾国民への信頼は揺るがないものと思っている。


引用元:台湾は日本の生命線!