鳩山議員外交

外交担当最高顧問にした野田首相の責任も問われるべきである。これ以上、民主党は政権を担当すべきではない。

政府の中止要請を無視して強行した外遊が、相手国に利用される結果となった。事前に懸念された通りの展開である。

 鳩山元首相がテヘランを訪問し、イランの核開発問題をめぐって、アフマディネジャド大統領らと会談した。

 イラン側の発表によると、鳩山氏は大統領との会談で、国際原子力機関IAEA)がイランなどに二重基準的な対応をとっているのは不公平だと語ったという。

 鳩山氏は帰国後、「完全な捏造で、大変遺憾に思っている」などと記者団に語り、イラン側発表を否定した。だが、鳩山氏の訪問がイランの核開発の正当化に利用されたのは否定しようがない。

 イランの核問題は今、欧米諸国が制裁圧力を強める中、イランと関係6か国の協議再開を控えた微妙な時期にある。鳩山氏の外遊が、欧米と協調する日本外交の足を引っ張ったのは、重大な問題だ。

 政府は再三、訪問中止を求めたが、鳩山氏は「議員個人の活動であり、議員の外交努力で国益に資することが十分あり得る」などと反論し、聞き入れなかった。

 しかし、外交の常識として、首相経験者と大統領の会談にそんな言い訳は通用しない。

 藤村官房長官が「個人の立場でも、こういう時期に訪問をしない方がいいと言い続けてきた」と不快感を示したのも当然である。

 鳩山氏には、日本外交を側面支援したいという身勝手な思惑があったのだろう。だが、外交は政府の専管事項であり、議員外交はその補完にとどめるべきだ。

 民主党執行部にも責任の一端がある。党内融和のため、2月下旬、最高顧問の鳩山氏を外交担当に決めたことだ。

 その直後、鳩山氏は訪中し、輿石幹事長ら党訪中団と同じ日に、中国の習近平国家副主席と別個に会談するという異例の「二元議員外交」を行い、党内の調整不足ぶりを露呈した。

 鳩山氏は首相在任中、「トラスト・ミー」といった不見識な言動で、米軍普天間飛行場の移設問題を迷走させ、日米関係を危機に陥らせた張本人だ。こうした危うい首脳外交が、国益を損ねた。

 退任後も、在沖縄海兵隊の抑止力に関する自らの発言を「方便だった」と言い放ち、沖縄の強い怒りを買った。多くの失敗を、もう忘れてしまったのか。

 鳩山氏は、能力的にも性格的にも、外交に関与してはならない政治家だ。そのことを、一日も早く本人が自覚してもらいたい。

(2012年4月10日01時08分  読売新聞)