円高還元セール

 現在のような不況とデフレの世の中にあっては最早円高還元セールそのものが大規模小売業の目玉商品と化している。実に空しいキャンペーンであるし、政府の無策を物語る現象だ。
 大手スーパーは少しでも為替が円高に振れれば、ここぞとばかりに還元セールを始める。するとマスコミが採り上げる、お客が増える(だろう)という図式である。だが、客単価は上がるまい。目玉だけ買って帰る賢明?なお客が増えたのだから。
 イトーヨーカ堂の正直な管理職は記者に問いつめられて「今安売りしては、持ち出しである」と認めていた。それほど彼らは何らかの機会を捉えて販売促進をせねばならない長引く景気なのである。彼らの業績は明らかに長期的に右肩下がりであることがそれを示している。
 少しでも輸出入の業務に携わった経験があれば誰にでも解ることだが、現在小売店が店頭に並べている輸入されたはずの商品が、当日の為替で仕入れられていることなどあり得ないのだ。
 この円高じわりと続いて来た時期にあっては、90円台だった頃の仕入れであろう。それでも“円高還元”と銘打って、全店舗と店内を目玉商品化して売り出しているのだろう。
 通常、アメリカ西海岸から船便で輸入すれば、航海日数だけで2週間はかかる。それに輸入業者が末端の小売業者と為替レートを如何に取り決めているかにもよるが、通関や内陸輸送に要する日数を加えて考えれば、最短でも1ヶ月ないしは1ヶ月半以前に輸入され決済された商品であろう。
それを当日のレートで計算して売れば、何処かで誰かが為替差損を負担していることになるのだ。
 或いは、後から輸入した商品の為替差益で穴埋めでもする気なのだろう。
 危険な綱渡りである。
 なお、空輸されてくる商品とても今日成田か関空に到着したからと言って、直ちに通関が切れて内貨になって小売店に到着する性質ではない。
店頭に出るまでには最短でも1週間はかかるかも知れないのだ。
現在の不況下では此処までして売らないと消費者が興味を示さないほど、末端の消費者は小売価格に敏感になっているし、何処が安いかを調べ上げて買いに来るのである。全ての消費者が為替レート事情に精通しているとは思わないが、目玉商品の価格に魅力があれば買うのである。
円高対策も勿論焦眉の急であるし、景気回復策、デフレ阻止策、雇用の改善策、所得増加策等々、政府が打たねばならない対策は山ほどある。
どれ一つとして後回しにして良いものなどない。
 マニフェストがどうしたの、コップの中の争いだの、誰が新代表になったらどうなるのと空騒ぎをしていられる時ではない。
円高還元セールの虚しさ:前田 正晶:イザ!