斎藤吉久の「誤解だらけの天皇・皇室」

「神の新年」賢所御神楽の日に

宮内庁の用語では、天皇陛下が来日した外国の元首とお会いになることをご会見(天皇陛下が皇后天皇陛下とご一緒に,来日された外国の元首・夫人などの賓客とお会いになること)」といい、首相や大使などの場合は「ご引見(天皇陛下が皇后陛下とご一緒に,外国の首相や大使,その夫人などの賓客とお会いになること)」と呼んでいます。

あくまで宮内庁の用語で、従わなければならない義務があるというわけではありません。メディアは馴染みのうすい「ご引見」を避け、わかりやすさを優先して、表現を統一しているのでしょうが、このため「ご会見」と「ご引見」の扱いの違いが見失われることになります。

天皇という、少なくとも千年以上続く日本の最高権威にとって、今回の特例会見はいわば格下の「ご引見」に過ぎません。国家の賓客ではあっても国家元首の公式訪問ではありません。それなのに、陛下のご健康を十分に配慮せず、慣例を破り、ドタバタと会見を設定する意味が分かりません。伝えられるところでは、中国側は「ご健康への配慮ならやむを得ない」といったんは納得していたというのですから、なおのことです。

宮内庁が発表した先週のご日程を見て、ああ、やはり、と私は思いました。
http://www.kunaicho.go.jp/activity/gonittei/01/h21/gonittei-1-2009-4.html

ふつうなら「平成21年12月15日(火)天皇陛下、ご引見(中華人民共和国副主席)(宮殿)」の数日前に、大使のご説明があるはずなのに、それがないからです。公式訪問とはいえ、急遽、ドタバタで設定されたご引見ですから、時間的余裕がなかったのでしょう。

もっというと、このご引見の日は賢所御神楽の当日でした。新たな1年の祭祀が始まる神の新年と位置づけられる重要な祭りの日です。夕刻、陛下が拝礼されたあと、6時間にわたって御神楽が奏され、この間、陛下は端座して慎まれ、終了の知らせのあとようやく就寝されると聞きます。

昨年はご不例のため、休養中の陛下に代わって、掌典次長によるご代拝となったと伝えられていましたから、今年、陛下の思いはひとしおだったのではないかと拝察されます。ご引見が直接、その陛下の祈りの時を奪ったというわけではありませんが、静謐な祈りの1日が妨げられることがないようにと願います。国と民のために祈る祭祀こそ第一のお務めと考えてきたのが歴代天皇だからです。

そのような天皇の存在が軽々しく扱われているのは残念です。


引用元: Gmail - 斎藤吉久の「誤解だらけの天皇・皇室」 vol.110 - より