知らなかった。
記録集計にコンピュータを使用していて世界記録が即座に表示されていた、女子バレー大松監督の話を聞いたのを思い出す。
『昭和の特別な一日』 杉山隆男/著 新潮社 2012年発行
上空1万5千フィートの東京五輪 (一部抜粋しています)
鳩が放たれ、「君が代」が流れ、五輪のマークが空に描かれる。そしてテレビの中継は、ロイヤルボックスから開会式の模様をながめていた皇后が傍らの昭和天皇に声をかけ、ほら、とでもいうように笑顔で空を見上げている映像を映し出していた。
5人の航空自衛隊パイロットはオリンピック組織委員会からのオーダーに完璧に応えてみせたのである。
国立競技場の上空はマークを描く5機のF86よりさらに高い空からのその様子を息を詰めて見守っていた鈴木(防大1期生)は、彼らが旋回に入り、輪をかきはじめた時点で、これはいい、とすぐにわかった。
輪と輪のほどよい感覚も、機体の後尾から吐き出されるスモークがおむすびの形になることなく、なだらかに弧を描いているところもこれまでとはまるで違う。百数十回挑戦しながらただの一度として成功したことがなかったのにと、本番ではものの見事にやってのける。5人こそほんとうのプロフェッショナルだ、と鈴木は思った。
旋回を終えた5機はいっせいに機首を上げ、2万フィートまで上昇した。彼らはそこではじめて自分たちが描いた輪を目にしたに違いなかった。
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