スペイン王室主宰の「アストゥリアス皇太子賞」

同意。

不合理な賞勲・栄誉群を仕分けせよ 大礒正美

今月3日付けで発表された叙勲で、河野洋平・元衆院議長が桐花大綬章を受けた。旧制度の勲一等旭日桐花大綬章に当たるもので、おおむね「三権の長」経験者が存命中にまず受けることになっている(没後に大勲位追贈が普通)。

(以下敬称略)河野だけでなく、叙勲は公職の格付けでほぼ決まっているので、官房長官(宮沢内閣)、外相(村山内閣)を歴任する間に、どれだけ突出した自虐外交を繰り広げたかは全く考慮されていない。

実態のない「従軍慰安婦」を謝罪した官房長官談話の共犯というべき宮沢は、引退後にいかなる叙勲も辞退して生涯を終えた。 一方、「植民地支配と侵略」を認め、「多くの国々」つまり全世界に対して謝罪した社会党左派出身の村山は、日本国民に対して歴史的な大罪を犯したにもかかわらず、河野と同じ栄誉に輝いている。

叙勲の不合理が著しいのは国防・治安分野である。
 
東京大空襲や原爆で日本の都市を焼け野原にし、民間人50万人を殺した指揮官カーチス・ルメイに、日本政府は1964年、勲一等旭日大綬章(きょくいち)を授けた。

空軍参謀長として航空自衛隊の創設に貢献したという理由だったが、61年に同じような理由で海軍トップのアーレイ・バークが旭一を受章しているので、単にバランスをとるしかなかったらしい。

その後、今日まで米軍関係者に対する叙勲は、旭一相当の高位を含んで3百人ぐらいに達すると推定されるが、政府は詳細を発表していない。
 その理由は多分、公表すると我が国の防衛は全面的に米軍に依存しているのだという印象を、内外に与えることになるからではないかと思われる。

つまり、現役自衛官は年齢からも叙勲対象にならず、70歳を超えた元統幕議長でも事務次官以下のランクとなるので、米軍人受章者と全く釣り合わない。 そういう不合理が問題になったため、平成15年の制度改革で「危険業務従事者叙勲」が新設され、自衛官、警察官、消防士、海上保安官、刑務官などが新制度の対象となった。

それは一見改善のように見えるが、歴史的なホンチャンの叙勲制度を温存するということでもある。

文化勲章は戦前の昭和12年に新設された勲等で、旧勲一等と二等の間と位置づけられている。この栄誉にも問題がある。 

平成3年、考古学の江上波夫が受章したが、彼は自分以外にほとんど支持者がいない「騎馬民族征服王朝説」で世に知られた東大名誉教授だった。

受章者として天皇陛下に御前講義した際、「あなたは万世一系ではない。
大陸から来た征服王朝の人です。私の受章がそれを裏付けている」と言ったかどうか。実にヘンテコな文化勲章である。

もっとひどいのは大江健三郎のケースだ。平成6年のノーベル文学賞の発表に際し、日本政府は慣例となりかけていた文化勲章の同時授章を決めたが、彼は辞退でなく、暗に天皇と政府を民主主義でないと見下して拒絶を表明した。

日本の叙勲(と文化功労者年金)は拒否しながら、スウェーデン国王による授章を喜び、さらに8年後にはフランスのレジオンドヌール勲章も受けている。実にあわれな文化勲章である。

同じく東大の小柴昌俊は平成14年(2002)にノーベル物理学賞を受けたが、先に文化勲章を平成9年に受章している。それは政府に先見の明があったからいいのだが、ノーベル賞の翌年に重ねて旭一を受けている(旧制度の最後)。
 
文化勲章から「半格」上に昇叙したのは、「ノーベル賞と同時受章」の人たちより少し上に位置づけなければならない、という役人的発想であろう。果たして必要なことだったのだろうか。

ノーベル賞を意識するあまり、かえって文化勲章ノーベル賞に従属するような位置づけになってしまったのではないか。

文化勲章は勲章の1つなので戦後は憲法の規定で賞金や年金を付けられない。そこで別個に文化功労者という予備軍制度を創り、独自の年金を付けるようにした。文化勲章受章者はこの仕組みで必ず年金(現在は350万円)が受けられる。

いわゆる人間国宝(重要無形文化財保持者)の助成金は年200万円なので、文化功労者より格下ということになる。なかには順序よく人間国宝、文化功労者文化勲章、勲一等瑞宝章と昇り詰めた例もある(六代目中村歌右衛門)。

また、昭和52年(1977)に福田赳夫首相が創設した国民栄誉賞にも実利が伴い、例えばマラソンの高橋尚子は百万円程度のブランド・ウォッチを自分で選んだ。

このほかに紫綬褒章などの褒章制度と、昭和41年(1966)に佐藤栄作首相が創設した「総理大臣顕彰」もある。

これだけ複雑に屋上屋を重ねながら、福島原発事故と格闘した自衛官、警察官、消防士たちを真っ先に顕彰したのはスペイン王室主宰の「アストゥリアス皇太子賞だった。

東日本大震災フクシマ大事故は日本人の恥と誇りの文化を目覚めさせたはずだ。本来の目的を見失って久しい「国民の誇り」顕彰制度を、抜本的に仕分けするときが来たのではないだろうか? (おおいそ・まさよし 国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)2011/11/25)

頂門の一針より