米国経済はTPPでも助からない。


宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
  通巻第3468号 <10月31日発行>より

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 米国経済はTPPでも助からない。輸出倍増、雇用改善はオバマの選挙対策
 教育ローンは一兆ドル規模、すでに9%弱が焦げ付いたのも新卒に職がないからだ
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 TPPは土壇場、来週あたりドジョウ首相はAPECで参加を表明する段取り。国内の反対が異様に多いのに米国の顔色を窺って、売国行為に走る。
「中国を牽制するための安全保障上の理由からTPP加盟が得策だ」という人がいるが、条文には安全保障は除外すると書かれている。

日本のメリットはゼロ、農業は壊滅するが、表面的な損得勘定ではすまない。農業とくに農地、林業がもつ保水力が失われると関東平野は、今日のバンコックのように洪水になるぞ!
米国の国益に沿うということは、日本の国益にはならないということである。

 さて雇用の問題は米国で極めつきに深刻かつ、絶望的だ。
統計方法の違いは、むろん日本方式とも異なるが、事実上の米国の失業率は17%から19%だとする計算がある。だから「ウォール街を占拠せよ」という若者等の反乱がおこる。
以前、これは共和党の「ティーパーティ」(茶会)に酷似した民主党のそれ、と比喩したが、おなじ分析を最近あちこちに見かけるようになった。

 教育ローンにも暗雲が目立つようになった。
 大学進学者の多くが教育ローンの恩恵をうけている。これは奨学金ではなく、低利で学生に貸し出される学費ローン、返済は割賦で就労後、義務つけられている。
 日本には両親が加入する教育ローンがあるが、米国は学生本人が加入する。

 「偉大な社会」を謳ったジョンソン政権のときから本格化し、公的資金が投ぜられた。その規模は天文学的金額となった。

 そして黄金の経済繁栄がおわり、リーマン・ショック以後の米国経済は衰退の一途。
 教育ローンを借りたものの、すでに返済不能に陥った比率が9%弱となった。大学を卒業しても満足な雇用が得られず、ウォール街は首切り旋風の最中、公務員は定数削減でつついっぱい。

あまつさえ軍隊は国防予算の大幅削減にともない、新卒の入る余地がない。地方政府財政もパンク寸前だから警官になっても仕方がない。
 昨日まで銀行で高給をはんでいた人が、今日はビルの駐車場の係員とか、スーパーのレジうち。それでも雇用があれば良い方という。
惨状である。


 ▲世界平和も福祉も、同時にという「偉大な社会」建設の一環だった

 ジョンソン政権下、ひとり千ドルを二万五千人に。将来、教育ローンで育った学生等が実業界や国際交易の場で活躍し、米国経済の発展に貢献するだろうといわれて発足した。「金の卵」を育てるのが目的だった。

それが過去半世紀に巨大化し、米国では「教育ローン産業」とまで言われる。
 三人にひとりの学生がローンを借りており、中退組の69%がローンに世話になっていた。累積のローン貸出額は5500億ドルに達した公式統計が示しているが、実際は一兆ドルを超えている(英紙エコノミスト、10月29日号)。
もし9%のレシオで焦げ付けば、将来どうなるかって?