有機JAS認証制度の上陸(農業界で最初の未知との遭遇)

ひどいなぁ。

やるたびに先進国と先進国、先進国と発展途上国と次々に火種が拡大してなにも決まらない、それがWTOでした。

そこで、米国は今度こそ日本に「逃げられない」ような仕組みを考えました。FTAすらやるかやらないかすらすったもんだする上に、やっても例外規定が山ほどありますからこれじゃだめだ。そこで最終兵器ででてきたのが、一見米国が環太平洋のワンオブゼム(nonbei注: one of them )という顔ができるTPPだったわけです。

TPPは、要するに米国の罠ですね。おびき出す甘い餌は自動車や電気電子製品の関税自由化です。実際は現地生産のほうが今や多いですから、それほどのメリットはないはずですが、韓国に猛追されている強迫観念から抜け出せない日本財界にはえらく美味そうに見える餌だったようです。

さて、有機JASが国際協議の場で始まっているというのが私たち現場の有機農業者に知られるようになったのが、1990年代末のことです。実はそれまでにコーデックスでステップ7までいっていたのですから、なんのことはない、交渉の土壇場で私たち農家に知らされたというわけです。なんてこったい、ほとんど終わりじゃないか!

なんにつけ官庁は、自分で絵図を書いて、それにあった人選をした審議会を作って、何から何まで完全に決まってから、申し訳のようにパブリックコメントをちょっとだけ聞きます、というのが手口ですから、驚くには値しませんが。

ですから、TPPのようにやるやらないの段階から国民が関われるのは、たとえ1か月でも貴重です。有機JASはウンもスーもなく、「やりますから、意見言ってね」でしたから。

この有機JAS経験は2年ほど前に「私がグローバリズムと闘おうと思ったわけ」というシリーズで7回書いていますから、お暇だったら読んで下さい。
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2009/10/post-fbea.html

有機JASという制度は、ひとことで言えば有機農産物の挙証証明です。そもそも、農薬や化学肥料を「やった」ということを挙証するのではなく、「やらない」ということを挙証するんですから、話が逆だろうと思うのですが、「これもコーデックスで決まったことだ」のひとことです。

切り札は何といっても農水省の、「有機JASとらないと、今後有機と名乗れませんぜ」のひとこと。これじゃあ、やるもやらないもありしゃない。逃げ道塞いで、米国流を押しつけられたわけです。

苦い薬を飲む思いで、「しかたがない。ここを拒否すると話が進まない」と思い直して、コーデックス原案を読むと、一項一項腹がたつことばかりが、実にまずい翻訳文で列記されています。

たとえば、単肥と言って明治時代から使われてきた安全性になんの問題もない肥料の苦土石灰はダメ、硫安もダメ、尿素もダメ、、とダメダメ尽くしです。なんでかと言えば、コーデックス原案に、「天然由来の資材でも、製造工程で一切の化学処理がなされたものはダメ」という恐ろしい一項があるからです。

この一項に引っかけられて大部分の肥料資材が使用不可能になりました。これだけではありませんでした。

慣行農法の畑と有機農法の畑の距離が問題になったのです。「農薬の飛散防止」という一項があったからです。そこで原案を見ると、な、なんと40メートル開けろと書いてあるではないですか。

もう、唖然ボーゼンです。日本の農地で隣と40メートル開いている所があったら教えて欲しいもんです。関東では山間地しかないでしょう。

なぜこんな現実離れした一項があるのかといえば、米国やオーストラリアではそれが常識だからだそうです。バッキャ〜ローと叫びましたね。ここは日本だ!(笑)

万事この調子です。わが国の風土、地形、歴史は一切合切完全に無視されます。伝統などクソくらえ。先行した国に合わせろ、靴に足をあわせろといわんばかりの無理無体です。

40メートル条項だけはいくらなんでもということで修正させましたが、後は丸飲みに近い形で決められました。いや、「見直しを5年後にやるからさ」という農水省の甘い声を信じた私がバカだった。

思えば、私に根深い農水省に対する不信はこの時に生まれたのですな。あの官庁は農民を守らない。官僚が規制できる仕事が増えるのが省益。

それをささやいた担当官は移動ししているわ、あった「見直し」とやらはもっと重箱の隅をつつくようなことまでがんじがらめにした強化案だったのです。もういちど言わせて下さい。バッキャーロー!ああ、スッキリした。

このように、私たち有機農業者は日本の農業界で最初の未知との遭遇をやらかしてしまったのです。


引用元: 農と島のありんくりん,
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