「世界学力比較」

日本のマスコミ報道に違和感を感じた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 
      平成22年(2010)12月9日(木曜日)
       通巻3156号 <12月8日発行>
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
 「学力がふたたび向上、ゆとり教育見直し」などと日本のマスコミは報じたが  
  世界学力比較で突如トップに躍り出た「上海」の脅威を米マスコミは注目している
****************************************

 OECD(世界経済協力機構)が共同開発したテスト方式で世界中の15歳の子供達の学力(読み方、数学など)を調査し、世界比較するPISAの結果が世界に衝撃を与えた。世界六十五カ国、およそ47万人の生徒が参加した壮大なプログラムは日本でも185校。一万六千人が参加した。

 結果は、「都市」で5100名の生徒が試験に参加してきた中国の「上海」がダントツの一位、香港、シンガポール、マカオ、台湾そして韓国などが上位を占め、日本もドイツも、いや米国も、はるか後塵を拝するという結果をどう読むか?

 「なにくそ、やってやるぞ」「西側に追いつけ追い越せ」の臥薪嘗胆なのか、二宮金次郎的努力なのか。試験地獄、世界一の競争が背景にあるからこそ中国が勝利したのか?
 日本のマスコミは「ゆとり教育」の反省が拡がり、日本の生徒の学力が向上し始めたなどと日本のことばかりを悠長な姿勢で報道しているが、米マスコミは「上海がトップ」を格段の脅威とみて報じている。
たいそうな報道格差である。

 PISA(Program International Student Assesment)とよばれる世界学力テスト比較標準は、言葉の違いや教育システムの差違があって、世界同時均質な測定と断定することは出来ない。

まして中国全土ではなく、もっとも教養人が集中する上海だけの結果であるにせよ、数学、科学の分野で上海が世界一という事態は、どういう風に解釈すべきだろうか?


 ▲米国を振るわせる「第二のスプートニク・ショック」

 「これはスプートニク・ショックと似ている」とレーガン政権下で教育省に勤務した経験のあるチェスター・フィンが感嘆の声をあげた。
「従来まさか追いつけまいと思われたソ連が、いきなり米国の最先端技術に追いついたのだから」(ヘラルドトリビューン、12月8日)。
 
 ちなみにPISAの成績表は
 科学
(1)上海       575点
(2)フィンランド   554
(3)香港       549
(4)シンガポール   542
(5)日本       539
 以下は韓国、ニュージーランド、カナダ、エストニア、豪州とつづく。

 読み方
(1)上海       556点
(2)韓国       539
(3)フィンランド   536
(4)香港       533
(5)シンガポール   526
 以下、カナダ、ニュージーランドについで日本は八位

 数学
(1)上海       600点
(2)シンガポール   562
(3)香港       555
(4)韓国       546
(5)台湾       543
 以下、フィンランドリヒテンシュタイン、スイスとあって日本は九位。米国はずぅっと下位にある。米国の平均は23-25位だ。
 「まさか、追いつけるはずがないと推定されてきた中国がいきなり一位とは?」

不正、カンニング、学生の選び方などに問題はなかったのかと誰もが考えるが、現場上海で観察したマーク・シュナイダー(米教育省コミッショナー)によれば、「不正はなかったし試験をうける学生の選抜も公平だった」とした。

しかし「問題があるとすれば上海教育当局がイメージ向上のため、異常な力を入れた。地方から上海のエリート学校へきている生徒らが帰京しないで試験を受けた」という二つをあげている(同ヘラルド紙)。

日本は全国ばらばら185校にまたがって16000名の受験。かたや上海は一都市集中、しかも日本の三分の一の受験生というテストのあり方も問題といえば問題があるのだが。。。。

「中国のエリート生徒は日米欧のように体操もクラブ活動も同好会活動も消極的である」とする特徴も指摘されている。徹底的に利己的でガリ勉タイプが多いということである。

 しかし、結果だけをよむ限り次のハイテク競争は上海企業が寡占することになる?
 げんに米国で、もう一つ驚異の的になっているのは上海に本拠のある「華為技術公司」(Huaway Techonogy)である。


 ▲疑惑の中国企業は軍御用達の「華為技術公司」

 米国マスコミが注目した事件に09年春、シリコーンバレィで華為技術がコンピュータのエンジニア数百名もの大量引き抜きを始めたことがあった。
カリフォルニア州のシリコンバレイといえば、IT産業のメッカだけに優秀なエンジニアが外国企業に大量移籍すると否応なく目立つのである。

米国籍企業の通信整備大手「スプリント・ネクスト」社が華為技術から30億ドルの設備購入を準備中と伝えられると、「米国の通信中枢という国家安全保障に繋がるプロジェクトであり、中国軍と繋がる中国の企業から買うのは反対だ」との脅威論が拡大し、米議会が動き出した。

「米軍の指令系統が中国によって麻痺させられる懼れがある」とリーバーマン上院議員ら有力者が規制法案に準備に入った。
慌てた中国はゲッパート元下院議員(大統領候補になったこともある有力政治家)らをロビイストに雇用し応戦する。

 ともかく華為技術は、現在九万六千の従業員の半分が研究開発部門。上海の開発センターの八千人のエンジニアは全員が研究開発の専門家である。
この会社は元中国軍のエンジニアが22年前に創業した若い会社。にもかかわらずエリクソンに次ぐ世界二位の通信機材メーカーとなり、米国では同社にソフトの機密を盗まれたとして、モトローラとシスコ・システムが華為技術を訴えている。


 ▲背後に中国軍がいるから急成長できたのだ

 急成長の秘密は何か。
 改革開放の波にのって中国では不効率な国有企業の再編がなされた。「華為技術」の急膨張と世界企業への発展は中国政府の迂回援助がある。
輸出相手国に信用を供与し、買わせる。中国国富ファンドが100億ドルを供与して圧倒的な市場占有率を握らせ、要するに国家まるがかえ企業なのだ。

「こうした遣り方は不公平だ。政府の支援を受けずに自由競争の原則でビジネスを展開してきたノキアシーメンス、エリクソンなど欧米企業をわずか数年で凌駕した華為技術のからくりをみると中国は不公平きわまりない」と米国の警戒が強まっている。
 
 こういう報道の後に、上海の生徒の学力が世界一だと言われても、だから何だ、という懐疑論が拡がるのも無理はないだろう。