伝送速度とスループットの違い

メモしておく。

◆ 伝送速度とスループットの違い、ちゃんと説明出来ますか?

 スマートフォンスマホ)を使っていると通信の速度が気になりますよね。
スマホもこの1年でLTE対応がすっかり当たり前となり、「伝送速度が100メガ超え」
と聞いてもあまり驚かなくなりました。例えばNTTドコモは最近、「フルLTE」化に
より、最大で毎秒150メガビット(Mbps)の通信速度を実現したことを、海老フライ
を爆速で作る動画で宣伝したりしています。


 一方で「速度測定サイト」などを使って、その実力を測ってみると、実際に
得られる「スループット(実効速度)」はそこまで高速ではないことも
よく知られています。例えば、日経BPコンサルティングが今年5月に公表した
「第3回全国LTE/4Gエリア調査」では、最も高速だったNTTドコモでも、平均
ダウンロード速度は毎秒28.82メガビットに過ぎません。公称する伝送速度の
ざっと3分の1から5分の1しか、実際のスループットでは得られないわけです。


 では「公称150Mbpsは嘘なのか?」というともちろん違います。ただ、3分の1から
5分の1といった大きな差が生じる理由をきちんと説明するのは実はそんなに簡単
ではありません。大きく三つの要因があります。まず、実際につながる速度
(接続速度)が計算上の最大値よりは必ず遅くなる、という点。次に、携帯電話
などでは帯域を「他の利用者」と分け合う必要があるという点。最後は通信を
成立させるために必要な情報や制御情報のやり取りなどの「オーバーヘッド」に
通信帯域が使われるという点です。


 最初のポイント。100Mbpsや150Mbpsという数字は仕様上の伝送速度の最大値です。
言い換えると、LTEという通信技術自体を使い、20MHzの電波帯域と1台の基地局を、
たった1台の端末で独占すると、最大150Mbpsで「つながる」伝送路ができる意味に
なります。最大と書いたのは、この数字は技術仕様から計算出来る最大値であって、
例えば実験室のような理想的な環境でもまず出ない数字だからです。なので
「理論値」とか「理想値」と呼ばれることもあります。


 なぜ、理論値でつながらないのか? 端的に言うと電波は周りの環境の影響を
受けやすく、思った通りに飛ばないからです。このため、無線通信技術の
ほとんどは、電波環境が悪い場合に、接続する速度を落として安定に通信する
技術を備えています。実際の環境ではこうした機能が働くので、ほとんどの場合は
150Mbpsより低い速度でつながるのです。


 次のポイントは帯域の分配。同じ基地局を使う他の端末がいる場合、1台の端末が
通信を独占できません。同時に通信できるのは1台だけなので、台数が増えるほど
通信の機会を分け合う必要があるからです。そのため、たまたま他に同じ基地局
使う端末がいなければ独占出来ますが、都心部などではこうした状況はまれです。
渋谷などの繁華街で、速度が遅くなるのはこうした理由です。


 最後はオーバーヘッドです。インターネットで使う「IP」を始め、今は多くの
通信が「パケット交換」方式です。この方式ではデータを小分けにして送り、
受信側で組み立て直します。このため、データにあて先や送信元、組み立てる
ための連番といった「ヘッダー情報」を、小分けにしたデータの細切れ
一つ一つにくっつけて送ります。その分、際に送れるデータの量が減って
しまうのです。また、安全な通信を行うなどのために、端末と基地局、あるいは
最終的な通信相手であるサーバーとの間で、制御用の信号のやり取りを行います。
これもデータをための時間や量を削ってしまう要因になります。


 このように、実際に得られる「スループット」が「伝送速度の理論値」から
乖離する理由には、さまざまな技術的な要因が絡んでいます。なかなか一筋縄
では行きませんよね。ただ、「技術を理解する」というのは、このように
絡み合う要因を解きほぐして、一つ一つ理解していくしか作業です。
その先には「なるほどそうだったのか」という発見の楽しさもありますよ。

                       (日経NETWORK 山田剛良)