過大支払利子税制


 平成24年度税制改正大綱によると、平成25年4月1日以降に開始する事業年度から、法人の関連者(その法人との間に直接・間接の持分割合50%以上の関係にある者及び実質支配・被支配関係にある者並びにこれらの者による債務保証を受けた第三者等をいいます。以下同じです。)への支払利子を利用した租税回避への対応として、過大支払利子税制が導入されます。ここで想定されている租税回避とは、支払利子が損金算入されることを利用して、所得に比して過大な利子を借入先である海外の関連者に支払い、グループ内で資金を循環させることで、法人税率等が著しく軽減または完全に免除される国(以下「軽課税国」といいます。)へ所得移転するというものです。
例えば下図のように、グループ内の軽課税国法人から同じグループ内の外国法人を経由して資金借入を行うと、その支払利子相当の所得が軽課税国法人へ移転され、日本と軽課税国の税率の差額分だけ、軽課税国法人に資金が留保されることになります。また、その循環された資金を再度日本法人へ貸し付けることで、日本法人は実質的な資金流出なしで利子10を損金算入できたことになります。

 このような租税回避に対して従来の税制では対応できないため、過大な支払利子による所得移転を防止するため導入されることになったのです。

 具体的には、法人の関連者に対する純支払利子等の額が調整所得金額の50%を超える場合には、その超える部分の金額は当期の損金の額に算入しないものとするものです。例えば、純支払利子等の額が100、調整所得金額が150であった場合には、調整所得金額の50%である75を超える部分の金額、すなわち25がその期の損金の額に算入されません。

 海外の関連者から資金調達をしている法人は形式的な要件を満たすと適用対象となるため留意する必要があります。例えば、一時的な経常損益の悪化により純支払利子等の額が調整所得金額の50%を超えると、なんら租税回避行為を行っていないにも関わらず課税され資金繰りに影響を与えることになります。翌期に経常損益が回復して適用要件を満たさなくなれば、繰越損金不算入額のうち一定額を損金算入できますが、経常損益の悪化が長期化した場合には継続的に課税され資金繰りに多大な影響を与えます。もちろん、そのような場合には借入の見直しが行われると思いますが、その見直しにあたってもこの税制の適用関係を考慮しながら行う必要があります。

 今回の改正は租税回避防止が目的ですので、明らかに租税回避目的でないケースにまで課税することは趣旨に反すると考えます。ただ、課税技術上、租税回避行為だけに網をかけることは困難なのも事実であるため、適用対象となってしまった場合には、何らかの申請等により課税庁からの承認を受ければ適用除外となるような手当てをしてほしいところです。

2012年2月9日 (担当:栗田倫也)


引用元: 過大支払利子税制導入で思わぬ影響が | UAPレポート | 税理士法人UAP,
http://www.u-ap.com/report/archives/2012/02/09/vol74-1/