メディアの「誤報」が発端


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 金融政策のあり方が衆院選の焦点に浮上しています。それはメディアの「誤報」が発端でした。政権を選ぶ選挙で、あってはならない事態です。
 金融政策に大きな注目が集まったのは、自民党の安倍晋三総裁が先月十七日、熊本市内の講演で語った次の発言がきっかけでした。「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらうという買いオペをしてもらうことによって、新しいマネーが強制的に市場に出ていく」
 この発言について、多くのメディアは「買いオペ」の部分を省いて「安倍総裁が建設国債の全額日銀引き受けを検討する考えを示した」といった調子で報じました。
◆買いオペは普通の手段
 一見、どこがどう違うのかと思われるかもしれません。ところが、実は大違いなのです。
 買いオペとは、政府が発行した国債を日銀が金融市場で買う操作をいいます。日銀にとっては、市中に流通するお金の量を調節する重要な手段になっていて、毎月のように実施しています。
 これに対して「日銀引き受け」は政府が市場を通さずに直接、日銀に国債を買わせてしまう取引をいいます。安倍総裁が言ったのは「買いオペを通じて」ですから、引き受けには当たりません。
 ところが、報道が独り歩きしてしまう。日銀の白川方明総裁は二十日、一般論と断りながらも「中央銀行による財政ファイナンスあるいは国債引き受けはIMF国際通貨基金)の途上国への助言で、やってはならない項目リストの最上位」「通貨の発行に歯止めが利かなくなる」と強く批判しました。
 さらに経団連米倉弘昌会長も「世界各国で禁じ手となっている政策は無謀にすぎる」と日銀に加勢しました。こうなると大物同士のけんかですから、メディアはますます派手に報じます。
◆根拠のない空中バトル
 しかしもとはといえば、安倍総裁の発言から「買いオペ」の言葉を削除し、記者が勝手に「日銀引き受け」と解釈を付け加えたのが始まりでした。いわば根拠のない空中戦のようなバトルなのです。
 本紙は二十二日付で安倍総裁が「日銀が直接買うとは言っていない。市場から買うということだ」と発言を修正したと報じました。しかし本当は、全体として報道の側が正確さを欠いていました。
 いまは衆院選を控えて、国民がそれぞれの政党や政治家が何を訴えているのか、目を凝らし耳を澄ませて見極めようとしている時期です。野党総裁の発言を誤って報じては国民の目を曇らせてしまう。政策の是非や賛否は別にして、こうした事態はあってはならないと思います。メディアの一員として深刻に受け止めます。
 しかし一方で、この論争は思わぬ副産物もありました。日本経済が直面している難病であるデフレをどう克服するか、政府と日銀の関係はどうあるべきか、を考えさせる契機になったからです。
 もしも政府が国債を無制限、強制的に日銀に引き受けさせてしまえば、白川総裁が心配するようにインフレが加速するでしょう。しかし市場で買うなら、国債の信頼失墜に歯止めがかかります。市場が「日銀は政府の言いなりだ」と判断すれば、価格が急落し警戒信号になるからです。市場を通す意味はそこにあります。
 実は、日銀は国会の議決の下で毎年、政府の国債を引き受けています。ただし満期が到来した日銀保有国債残高を引き受け上限としているので、無制限ではありません。
 今後は国債を買い増すなら、国債の信頼失墜を防ぎながら、どう買い続けていくかが課題になります。それは本来、日銀が考える仕事です。
 そこから政治家が日銀に口出ししていいのか、という議論も浮上しました。「日銀の独立性を脅かす」論です。しかし、独立性とは日銀がどう緩和するか、政策手段に与えられたものなのです。
 政策目標すなわち物価安定の目標について政治家や政府が責任をもって議論していくのは、民主主義統治の原則からいって自然な姿です。デフレやインフレで困るのは国民自身なのですから。
 国債を買い増しして緩和するなら、インフレを防ぐためにも物価安定目標が重要になります。
 いまは、すべての衆院議員が議員バッジを外して辞職し、あらためて国民から負託を受けようと政策を競っている最中です。金融政策の目標と手段について議論を深めるのは、むしろ望ましい。
◆政策を選ぶのは国民だ
 政策を選ぶのは国民です。私たちは「ダメ」と思う候補者なら「ノー」を突きつければいい。そのためにも、私たちメディアは正確な報道と言論を肝に銘じつつ、政治家と日銀には重い説明責任も求めていきたいと思います。

引用元
タイトル:東京新聞:週のはじめに考える 「日銀引き受け」論争の真実:社説・コラム(TOKYO Web)
ソース:http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012120202000113.html"
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マスコミは嘘を書くな、事実だけ報道しろ。


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