仮名漢字変換用ローマ字

1980年12月に発売された『キヤノワード55』は,「ローマ字仮名漢字変換」を最初に搭載したワードプロセッサであり,「訓令式ローマ字」と「ヘボン式ローマ字」の両方をサポートしていた。
たとえば難波は,「namba」でも「nanba」でも変換可能だった。

これ以後,ほとんど全てのワープロやコンピュータが「ローマ字仮名漢字変換」をサポートするようになっていったが,それらはいずれも「訓令式」と「ヘボン式」の両方をサポートしていた。

ただ,「ん」に関しては別で,「m」のサポートは徐々に減っていき, 代わりに「nn」をサポートするものが増えていった。

2000年1月に制定された日本工業規格仮名漢字変換システムのための英字キー入力から仮名への変換方式』では,「m」の「ん」はオプションとなり,「nn」が「ん」に規定されてしまった。

すなわち,「namba」は「なm ば」に,「tennoji」は「てんおじ」に変換されるのが,標準の実装だ。つまり「ん」は,「n」でも「m」でもなく,「nn」になってしまった。

訓令式ローマ字」でも「ヘボン式ローマ字」でもない仮名漢字変換用ローマ字」が,もはや標準となってしまったのだ。
漢字追放の先鋒を担うはずだったローマ字は,「ローマ字仮名漢字変換」によって骨抜きにされてしまい,結局,漢字の下僕とされてしまったわけである。

引用元:N かM か
http://coe21.zinbun.kyoto-u.ac.jp/newsletters/CCC-vol9.pdf#page=5