日本マスコミは腐っている。(2)

再掲。

Japan On the Globe(172) 国際派日本人養成講座より

■1.ドイツでの論戦■

松原久子氏は、ドイツ・ゲッティンゲン大学院でヨーロッパ文化史を専攻、小説や評論などドイツ語の著書を多数出版され、さらにドイツの新聞やテレビで活発な発言を続けている。

その松原氏が、ドイツの全国テレビで「過去の克服−ドイツと日本」をテーマにした討論番組に参加された。ドイツ代表は、日本も戦時中、中国、朝鮮、東南アジアで市民を殺戮したからホロコーストは日本の問題でもある、と発言した。松原氏はすかさず、こう反論した。

日本にはアジアの特定民族を絶滅することが優秀な日本人の使命だという論理は存在せず、日本政府がそうした論理に基づく政策を立てたことはかつて一度もなく、占領した地域で目的の民族をしらみつぶしに探し出して、もっとも効果的に安上がりに殺すべきだといった発想そのものが日本人の思惟方法には存在しない。ドイツの犯したホロコーストは戦争とは全く無関係の次元にある殺戮だ。

ドイツのテレビ番組で、これだけ明快、かつ論理的に主張する日本人がいたとは、うれしい驚きであった。

■2.言挙げの方法■

このエピソードにはさらに後日談がある。テレビ局からの帰りで、ケルン駅で列車を待っていると、人ごみの中から中年の女性が近づいてきて、「我々のテレビで我々の悪口を言う者はこれだ。日本に帰れ」と言うなり、松原氏の顔に平手打ちを食らわせ、消えていった。

次のテレビ出演の時に、松原氏はこの事件を手短に話し、ドイツには今もって言論の自由がないから、身を守るため沈黙すると宣言した。すると、放送中に80件以上もの電話があり、局を通してたくさんの花束がお見舞いとして届けられた。その一つには「あなたの言うことは腹立たしい。でも本当だから仕方ない」と書かれたカードがついていたという。

わが国は「言挙(ことあ)げ」をしないこと、すなわち、言葉に出して言い立てず、「以心伝心」や「沈黙は金」を美徳とする伝統がある。国際会議でも日本の代表は、3S、すなわち、
Smile、Silent、Sleepだと阿諛されるほどであるが、それでは国際社会ではやっていけない。

 松原氏は大変な経験をされたわけだが、これによって多くのドイツ人に対して、日本の戦争犯罪とドイツのホロコーストとを同一視する過ちを認めさせた氏の「言挙げ」に対して、謝意と敬意を表したい。同時に、このような「言挙げ」の方法は、国際社会で生きる日本人が大いに学ぶべき術であると思う。